第1 事案の概要

X(原告)は、協同組合であるY(被告)の組合員であったとこ ろ、令和2年1月に民事再生手続開始の決定を受け(以下「本 件再生手続」といいます。)、同年9月にYを脱退する旨の意思 表示をしました。

本件は、Xが、Yに対し、XのYに対する出資金501万円に係る 返戻請求権(以下「本件出資金返戻請求権」といいます。) は、脱退の効力が発生する令和3年3月末の事業年度の終了 日において組合財産が存在することが同年6月のYの総代会 において確認されたことにより停止条件が成就した旨を主張 して、本件出資金返戻請求権に基づき、出資金501万円及び これに対する遅延損害金の支払を求めた事案です。

再生債権者であるYが本件出資金返戻請求権の停止条件 不成就の利益を放棄して行った、再生債権(YのXに対する貸 付金残元金の債権1,008万4,057円及びこれに対する遅延 損害金)を自働債権とし、本件出資金返戻請求権を受働債権 とする相殺(以下「本件相殺」といいます。)が、民事再生法92 条1項によって許容されるか否か等が争われました。

第2 本件の争点と判断概要

1 争点

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はじめに

コロナ禍によって事業や財政状態が毀損した企業の再生が課題となる近時、実質的に債務超過状態にある上場会社をスポンサーが完全子会社化する(つまり既存株主の保有する株式を全てスポンサーが取得する)ことで、その経営再建を図る事例が増加しつつある。

こうした事例では、事業再生ADR手続等の準則型私的整理手続を通じた金融債権者(金融機関)を対象とする債務リストラクチャリング(債務免除による金融支援)によって過剰債務を解消するとともに、スポンサー支援を通じて資本を拡充し手元資金を確保した上で、対象会社の上場を廃止してスポンサーの完全子会社となり抜本的な再建プロセスが講じられることになる。

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1. 本決定の概要

本件は、当事務所が代理し、民事再生法に基づく再生手続が東京地方裁判所に係属している再生債務者が中国の上海市に相応の資産を有していたことから、同資産の保全を図るべく、中国の裁判所(上海市第三中級人民法院)に対して、東京地方裁判所による再生手続開始決定及び監督命令を承認するよう申し立てた事案です。上海市第三中級人民法院は、弁論期日を開催して関連当事者の意見を聴取し、中国国内の知れたる債権者に対して異議申立機会を提供し、かつ、中国国内で公告を行った上で、2023年9月26日に、再生手続開始決定及び監督命令を承認する旨、ただし、債権者の利益に重大な影響を及ぼす再生債務者の中国国内における財産処分行為については別途人民法院による許可を要する旨の決定(以下「本決定」といいます。)を下しました。

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Hajime Ueno, Masaru Shibahara and Kotaro Fuji, Nishimura & Asahi

This is an extract from the 2024 edition of GRR's The Asia-Pacific Restructuring Review. The whole publication is available here.

This is an Insight article, written by a selected partner as part of GRR's co-published content. Read more on Insight

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第1 はじめに 

国際契約を中心に、契約書に仲裁条項が設けられることは 珍しくありません。仲裁条項のある契約について紛争が生じた 場合、裁判所ではなく合意された仲裁機関での紛争解決が 試みられます。では、このような仲裁条項のある契約について、 一方当事者が倒産した場合、仲裁条項は引き続き有効でしょ うか。仲裁という当事者間の合意を重視する手続と、倒産とい う強行法規的に一律かつ集団的な調整を行う手続とは、相 互に相反するようにも見受けられます。仲裁と倒産の関係につ いては、国際的にも大きな議論があるところですが、以下で は、仲裁条項のある契約につき、海外の契約相手が破産した 場面を想定して、基本的な考え方を概観したいと思います。

第2 仲裁合意は破産管財人を拘束するか

一般的な仲裁条項は、例えば、以下のような条項であり、契 約に関するあらゆる紛争は、合意された仲裁条項に基づき、 合意された仲裁機関(下記の例では、シンガポール国際仲裁 センター)で仲裁により最終解決されます。

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私は、当事務所にて事務職員として勤務していますが、前職 は大阪地方裁判所の裁判所書記官として、裁判所での倒産 事務に携わっておりました。現在も当事務所の倒産事件につ き弁護士をサポートしていますので、元書記官の視点から、今 回は、前回に引き続き、債権届出書の記載事項のうち、法人 の代表者の記載方法についてお話いたします。

裁判所に提出する債権届出書には、届出債権者の特定の ため「債権者及び代理人の氏名又は名称及び住所」を記載し て届け出ることとされており(破産規則32条1項1号、民事再生 規則31条1項1号及び会社更生規則36条1項1号)、個人であ れば住所と氏名、法人であれば名称と主たる事務所、商号と 本店などを記載して届け出ることになることは前回お話いたし ましたが、代理人を記載すべき規定は法人の代表者について 準用されることから(破産規則12条、民事再生規則11条、会 社更生規則10条及び民事訴訟規則18条)、届出債権者が法 人の場合は代表者の記載も必要となります。

判決書等の裁判書類における代表者の記載方法としては、 ①代表者である旨②登記上の代表資格(肩書)③代表者の 氏名を記載することが通例とされています。

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はじめに

2023年6月30日、金融庁は、有価証券報告書および有価証券届出書ならびに臨時報告書において開示すべき「重要な契約」の類型やその開示内容を具体的に明らかにする「企業内容等の開示に関する内閣府令」等※1 の改正案(以下「本改正案」)を公表しました。

本改正案では、「企業・株主間のガバナンスに関する合意」と「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」、そして「ローン契約と社債に付される財務上の特約(財務コベナンツ)」の3類型を対象に、有価証券報告書等の記載事項を改正するとともに、財務コベナンツの付されたローンと社債に関して、新たな臨時報告書の提出事由を加えることが提案されています。

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はじめに

金融かわら版~担保法制の見直しに関する中間試案①~」においては、法制審議会担保法制部会(以下、「担保法制部会」といいます。)の2022年12月6日の第29回会議において取りまとめられた「担保法制の見直しに関する中間試案」(以下、「中間試案」といいます。)の第1章「担保権の効力」及び第2章「担保権の対抗要件及び優劣関係」につき、中間試案とともに公表された担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明(以下、「補足説明」といいます。)や、その後に公表された担保法制部会資料等も踏まえて、特に金融実務の観点から重要と思われる点を中心に紹介いたしました。本稿では、それに引き続き、中間試案の第3章「担保権の実行」、第4章「担保権の倒産手続における取扱い」及び第5章「その他」のうち、金融実務及び倒産実務の観点から重要と考えられる項目を紹介します。

個別動産を目的とする新たな規定に係る担保権の実行

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スタートアップ(ベンチャー企業)において重要なエクイティ・インセンティブであ るストックオプション(SO)のうち、税制適格 SO の要件の一つとして、1 株当たりの 権利行使価額として、その新株予約権に係る契約(付与(割当)契約)を締結した時に おける発行会社の 1 株当たりの価額に相当する金額(時価)以上であることが必要とさ れています2。この点につき、従前、種類株式(優先株式)を発行しているスタートアッ プが、普通株式を目的とする税制適格 SO を発行する際の普通株式の 1 株当たりの価額 に相当する金額(時価)の算定ルールが明確ではありませんでした。

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私は、当事務所にて事務職員として勤務していますが、前職 は大阪地方裁判所の裁判所書記官として、裁判所での倒産 事務に携わっておりました。現在も当事務所の倒産事件につ き弁護士をサポートしていますので、元書記官の視点から、今 回は、債権届出書の記載事項のうち、届出債権者の特定につ いてお話いたします。

倒産手続が開始すると、裁判所から債権者に対して通知が なされるとともに、定められた期間内に、倒産債務者(破産者、 再生債務者または更生会社)に対して有する債権を裁判所 に届け出るよう求められます(ただし、破産手続の場合は、破 産法31条2項の規定により、配当の見込みが立つまで債権届 出を不要とする「留保型」が採用される場合もあります。)。

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