8月号(民事再生)、9月号(破産)と法的手続の話が続きまし たが、3回目の今月号は、近時の私的整理(協議会手続・事業 再生ADR)の動向を紹介したいと思います。
1 協議会の再生手続の利用状況
1 倒産手続の債権者申立て
債務超過や支払不能等の要件がある場合、債権者が主体と なって、債務者につき倒産・再生手続(破産、民事再生、会社 更生)の申立てをすることができます(債権者申立て一般につ いては、村上寛「倒産手続の債権者申立て」(2019年9月号)に て概説しておりますので、そちらをご参照ください。)。
債権者が債務者の破産申立てを行う事例はそこまで一般的 ではありませんが、それでも、債務の弁済に非協力的である一 方、財産隠匿や偏頗行為、放漫経営等による財産の減少が 疑われる事例は枚挙に暇がないところです。
そこで今回は、債務者が、自らに対する債権の弁済に非協力 的である一方で、既に、金品の持ち出し、預金の解約、不動産 の第三者への廉価売却、役員報酬の増額と回収等の財産隠 匿行為、あるいは全債権を支払うことのできない状態にあるの に、特定の債権者に対してだけ偏った弁済をする等の偏頗行 為が進行してしまい、弁済の対象となるべき財産(責任財産) の会社からの流出が起こってしまっているときに、債権者として 採りうる手段の一つとして、破産法上の保全管理命令を紹介 したいと思います。
2 保全管理命令について
Corporate restructuring transactions are often motivated by tax planning, though there are usually other legitimate corporate needs to be achieved. The Corporations Tax Code of Japan contains provisions granting the government power to deny the effects of corporate restructuring for tax purposes—e.g., Article 132 (for family company group transactions) and Article 132-2 (for intra-group mergers and other reorganizations). In recent years, Japanese courts have been trying to clarify the standard for denying the tax effect of certain restructuring transactions.
Hajime Ueno, Masaru Shibahara and Hiroki Nakamura, Nishimura & Asahi
This is an extract from the 2022 edition of GRR's the Asia-Pacific Restructuring Review. The whole publication is available here.
In summary
はじめに
ケイマン諸島と香港の裁判所は、この数ヶ月、ケイマン諸島の会社を再編することを目的とするクロスボーダーの申立てについて、関連する法域における裁判所がどのようにこれを処理するのか実用的な方向性を示しました。これは、国際礼譲および修正された普遍主義の原則に沿ったものです。
裁判所のスタート地点
手続が一つ以上のコモンローの法域で開始されたが、清算人の任命が未了の場合、裁判所が修正された普遍主義を適用するためのスタート地点は、倒産の主手続の役割を担うのはどの法域がより適当かということを考えることでしょう。最近の香港およびケイマン諸島の両地域の裁判例では、長年の先例に沿いながら、通常この法域とは会社の設立地であることを確認しました。なぜならば投資家やサービス・プロバイダーおよび債権者が通常関係しているからであり、とりわけ、会社の登録された営業所であったり、その取締役会の義務やその定款を規定する法律の地であるからです。
1.産業競争力強化法等の改正
2021年8月2日、「産業競争力強化法等の一部を改正する 等の法律」の一部が施行されました。
(https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210802001/20 210802001.html:経済産業省のHP参照)
改正内容は多岐にわたりますが、本稿では、中小企業再生 支援協議会(以下「協議会」といいます。)による事業再生支 援の機能強化について、取り上げたいと思います。
2.プレDIPファイナンス及び商取引債権保護規定の 創設(総論)
8月号に続いて、コロナ禍での法的倒産案件数の動向を紹 介します。今回は破産編です。
1 破産手続の利用状況
(1) 2020年
2020年に裁判所が受け付けた破産事件の数は全国で 78,104件(2019年比2 .6%減)、東京(本庁)で8,807件(2019 年比8 .0%減)となっています。東京の8,807件の内訳は法人 破産1,438件、個人破産7,369件であり、いずれも2019年比で 減少となりました1 。東京地裁(本庁)の2016年から2019年の破 産事件数は年間9,000件台中盤から後半で推移していました ので、2020年の8,807件は大きな減少といえます。減少の要因 としては、コロナ禍による影響緩和のための各種公的給付や 金融機関による資金繰り支援の浸透等が考えられます。
(2) 2021年1月から8月の動向(速報値)
1 はじめに
産業競争力強化法等の一部を改正する法案が2021年6月9 日に可決成立し、同月16日に公布され一部は公布日に、その 他の部分についても8月2日付で施行されました。
バーチャルオンリー株主総会をはじめとして、多岐にわたる 今回の産業競争力強化法等の改正ですが、本稿では、事業 再生と債権管理に影響のありうる改正点(「債権譲渡の第三 者対抗要件の特例」及び「事業再生の円滑化のための事業 再生ADRに関連する改正」)にフォーカスして説明いたします。 なお、本稿では、ことわりのない限り、改正後の産業競争力強 化法を「法」と略しています。
2 債権譲渡の第三者対抗要件の特例
これまで債権譲渡の第三者対抗要件の具備には、①公証 役場での確定日付の取得や内容証明郵便(民法467条、民 法施行法5条1項2号及び6号)、あるいは②債権譲渡特例法 に基づく債権譲渡登記(債権譲渡特例法4条1項、14条1項) のいずれかの方法による必要があり、実務的には①のうちの 内容証明郵便(電子内容証明を含む)の方法が多く用いられ ています。
第1 はじめに
破産法では、破産債権についての債権者間の公平・平等な 扱いを基本原則とする破産手続の趣旨が没却されることのな いように一定の場合に相殺を禁止する一方で、相殺の担保的 機能に対する合理的な期待が認められる場合にはかかる相 殺禁止を解除することとしています。破産法72条2項2号はこう した相殺の担保的機能に対する合理的な期待を保護するた めの規定の一つであるところ、同規定に関して債権者の相殺 権を制限する旨の判示をした高裁判決(福岡高裁平成30年9 月21日判決(金法2117号62頁)。以下「平成30年福岡高判」と いいます。)を事業再生・債権管理Newsletter2019年8月号 にてご紹介しましたが、近時、平成30年福岡高判を破棄自判 し、「真逆の」結論を示した最高裁判決(最高裁令和2年9月8 日第三小法廷判決(民集74巻6号1643頁)。以下「令和2年最 判」といいます。)が出されました。そこで本稿では、債権者の 相殺権保護の範囲の拡張を示唆する令和2年最判を紹介し た上で(後記第2ないし第4)、令和2年最判が破産債権者に よる相殺権の行使の可否ないし限界の議論に及ぼす影響に ついての若干の考察(後記第5)を行います
第2 事案の概要
1 はじめに
破産手続開始申立の多くは、弁護士を代理人としてなされま す。債務者からの依頼を受けて破産手続開始申立の代理人 になる弁護士は、委任契約上、その事務処理につき、委任契 約上求められるレベルをもって履行し、依頼者の利益を実現 する義務を負います。それに加えて、破産手続が、債権者その 他の利害関係人の利害や、債務者と債権者との間の権利関 係を図ることを目的とする手続である(破産法1条)ことから、破 産申立代理人になる弁護士は、依頼者である債務者以外に も多数の債権者や利害関係人の権利関係を適切に調整し、 債務者の財産を適正に処理するという役割を担っており、破 産目的の実現に資するように行動するという公的な責務も同 時に負います(伊藤眞他『条解破産法[第3版]』159頁(弘文 堂、令和2年))。