1 仙台高裁令和2年10月13日決定のご紹介(破産手 続開始申立てが不当な目的によるものとして棄却され た事例)
(1) 当事者・本件抗告
相手方Y(債務者)は平成23年11月頃から勤務医師として働 いており、抗告人Xは令和元年9月26日にYと離婚した元妻で す。Yは、令和2年2月に支払を停止し、令和2年6月2日に本件 の破産手続開始の申立てを行いました。原審(福島地方裁判 所相馬支部)が、令和2年7月27日、Yについて破産手続を開 始する旨の決定(原決定)をしたのに対し、Xは、原決定を不服 として、原決定の取消し及びYの破産手続開始の申立ての棄 却を求めて即時抗告(本件抗告)しました。
Xは、離婚に伴う財産分与として、現住所のマンションの所有 権をYから譲り受けたところ、同マンションには住宅ローンの抵 当権が設定されており、財産分与後もYが債務者として同ロー ンの支払を継続することが離婚協議書により合意されていま した。もっとも、Yが破産すると、マンションに設定された抵当権 が実行され、XはYに対し、上記合意の債務不履行に基づく 損害賠償請求権(破産債権)を有することとなります。
第1 はじめに
強制執行とは、主に、民事裁判で確定された権利を実現す るため、民事執行法に基づく手続のことです。強制執行といっ ても、債権者が有する権利の内容に応じて、様々な方法が用 意されており、大別すると、金銭の支払を目的とする権利のた めの手続(金銭執行)と、金銭の支払を目的としない権利のた めの手続(非金銭執行)に分けることができます。金銭の支払 を目的とする権利としては、例えば、貸金返還請求権がありま すが、交通事故でケガをしたとして、加害者に治療費などを求 める損害賠償請求権も、これに該当します。他方で、金銭の支 払を目的としない権利としては、例えば、契約に基づき家具の 製造を求める権利などがあり得ます
企業法務では、一般に、金銭の支払を求める権利の実現 (債権回収)が問題となるため、本稿では、強制執行のうち、金 銭執行に焦点を当てて、簡単な解説をさせていただきます。
第2 金銭執行の準備
1 債務名義と執行文
コロナ禍において、債務残高が増加し、債務の過剰感を感じる企業も増える中、2021 年 6 月 に政府の「成長戦略実行計画」が閣議決定され、同計画で、事業再構築・事業再生の環境整 備のため、中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインの策定を検 討することが示されました。これを受け、「中小企業の事業再生等に関する研究会」が発足し、 同研究会より、2022 年 3 月 4 日に「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下「本ガ イドライン」)が公表されました。その後、実務上留意すべきポイントをまとめた Q&A も公表され、 2022 年 4 月 15 日から本ガイドラインの適用が開始されています。
本ニュースレターでは、本ガイドラインが定める中小企業向けの新たな準則型私的整理手続 の概要について、再生型私的整理手続を中心にご説明します。
1 はじめに
(1) 本稿の目的
会社法は、債権者に、一定の条件のもと、債務者会社の株 主名簿(会社法125条2項3項、以下注記なき条文は会社 法)、取締役会議事録(371条4項)、株主総会議事録(318条 4項)、計算書類等(442条3項)の閲覧を請求できる権利を認 めている。もっとも、債権管理あるいは事業再生の文脈で、会 社法で認められたこれらの権利が活用されることは、筆者が 知る限り、あまり多くないのではないかと思われる。
本稿では、債権管理の局面において、情報不足になりがち な債権者に与えられたツールとして、会社法上の情報開示 請求権を有効活用しうる場面があり得るのではないか、との 指摘をすることを試みたい。
(2) 考察の背景
会社法が上記の各請求権を認めたのは、債務者の業務や 財産に関する一定の調査を行うことを可能として、債権者が 実効的な権利行使をできるよう配慮した趣旨と解される。債 権管理・事業再生の場面は、まさに債権者の実効的な権利 行使が問題となる局面といえる。にもかかわらず、この請求権 が参照される機会が少ないのはなぜか。
第1 はじめに
民事再生手続は、これまでの債務の支払を一旦停止した 上で、債務の圧縮(債務の一部の免責)を含む新たな支払計 画(再生計画)を立て、これについて債権者の賛同を得た上 でその計画に従った弁済をすることで、債務超過等の状況に ある債務者が事業の再生を図る手続です。再生債務者にお いて実現可能な内容であり、かつ再生債権者にとっても納得 のいく内容の再生計画を立てることが肝であって、そうした再 生計画案について再生債権者により可決されること及び裁判 所の認可決定を得ることが最も重要な課題の一つといえま す。
第2 再生計画が不認可となる場合
1 はじめに
法人が破産した場合、破産手続の終結に伴い、基本的に は法人格が消滅することになります。その結果、債務の負担 主体が消滅するため、債権も全て消滅することになります。こ れに対し、自然人(個人)が破産した場合、当然のことです が、破産手続が終結してもその自然人が消滅することはあり ません(そんなことになれば大変です。)。そうした場合に、配 当を得られなかった破産債権はどうなるのでしょうか。皆様の 中には、債務が「チャラ」になるというお話を聞かれたことがあ る方もおられるかもしれません。それはある意味的を射ていま すが、法的には少々不正確です。
1 破産免責の手続
個人破産の手続においては、破産手続の開始の申立てが ある場合、免責許可の申立てもするのが通常である。免責制 度は、破産手続による配当を受けることができなかった債務 について責任を免れさせることによって破産者の経済的再生 を図る制度であり、積極的に不誠実な行為をした者でない限 り、破産者の経済的再生を付与するために免責を与えるべき との考え方が有力であり、破産管財人は、このような考え方に 基づき免責調査を行い、免責不許可事由が存在する場合、 裁判所に対してその旨の意見書を提出しており、東京地方 裁判所民事第20部(破産再生部)においても、免責不許可 事由に該当する事実があっても、その不誠実さの程度が著し い事例を除き、免責許可をしているのが通常である(破産・民 事再生の実務・破産編(第4版)595頁)。
1 はじめに
破産手続が開始されると、当該事実は官報に公告されると ともに、知れている破産債権者に対して個別に通知されます (破産法32条1項、32条3項)。この知れている破産債権者へ の通知を行う主体は本来、破産裁判所ですが、実務では、破 産管財人が、申立代理人から提出された債権者一覧表に記 載のある破産債権者に対して通知書を送付することによりな されています(破産規則7条参照)。では、実際には債権を もっているにもかかわらず、債権者一覧表に記載がなかったがために通知を受けなかった債権者はどうなるのでしょうか? 本件は、通知を受けなかったために破産手続の存在を知ら なかった債権者が、破産手続に参加したとすれば得られたは ずの配当金を損害として、申立代理人及び破産管財人を訴 えたという事案です。
2 事案の概要
事案の概要は、以下のとおりです。
1 はじめに
中国に現地法人を有する日系企業が中国からの撤退を考 える場合、大きく分けて、第三者に対する持分譲渡、清算及 び破産の3つの方法があります。買主が見つかれば、持分譲 渡手続が最も迅速かつ簡便ですが、買主が見つからない場 合には、清算か破産を選択することになります。以前は外資 の中国子会社が破産を申し立てたとしてもなかなか受理され なかったのですが、現在では認められるようになり、破産も選 択肢の一つとなっています。本稿では清算と破産に関する法 制度と現状をご紹介したいと思います。
2 清算か破産かの判断基準
中国子会社の資産が負債よりも多く、すべての債務を支払う ことができる場合には清算手続が可能です。他方で債務超 過になっている場合には、破産手続によることになります。た だし、BS上の資産が負債より多い場合であっても、実際には 資産価値が毀損している場合があるため、清算が可能かどう か予めシミュレーションしておく必要があります。
3 清算手続の概要
中国における清算手続の流れは以下の通りです。
I. Introduction