1 はじめに

(1) 本稿の目的

会社法は、債権者に、一定の条件のもと、債務者会社の株 主名簿(会社法125条2項3項、以下注記なき条文は会社 法)、取締役会議事録(371条4項)、株主総会議事録(318条 4項)、計算書類等(442条3項)の閲覧を請求できる権利を認 めている。もっとも、債権管理あるいは事業再生の文脈で、会 社法で認められたこれらの権利が活用されることは、筆者が 知る限り、あまり多くないのではないかと思われる。

本稿では、債権管理の局面において、情報不足になりがち な債権者に与えられたツールとして、会社法上の情報開示 請求権を有効活用しうる場面があり得るのではないか、との 指摘をすることを試みたい。

(2) 考察の背景

会社法が上記の各請求権を認めたのは、債務者の業務や 財産に関する一定の調査を行うことを可能として、債権者が 実効的な権利行使をできるよう配慮した趣旨と解される。債 権管理・事業再生の場面は、まさに債権者の実効的な権利 行使が問題となる局面といえる。にもかかわらず、この請求権 が参照される機会が少ないのはなぜか。

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