本稿では、近年のシンガポールの事業再生/倒産に関連する法・実務の発展を概観しつつ、シンガポール国際商事裁判所(以下「SICC」といいます。)における国際事業再生/倒産案件の取扱いについて解説します 。
1. 近年のシンガポール事業再生/倒産に関連する法・実務の発展
シンガポールは、様々なビジネス分野において東南アジア(又はグローバル)におけるハブを指向していますが(例えば、国際仲裁の分野において、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)は国際仲裁機関として高い評価を得ています。)、事業再生/倒産の分野も例外ではありません。以下の年表からも分かるとおり、2010年代以降、政府・金融機関・実務家等が一丸となって、①グローバルスタンダードに合致し、かつ、国際倒産への対応も可能な倒産法制度を整備しつつ 、②シンガポールの裁判所を、東南アジアにおける国際事業再生/倒産案件のフォーラムとして確立しようとする動きが顕著に見られます 。
1. はじめに
マレーシアでは、Companies (Amendment) Act 2024(以下「本改正法」といいます。)が、一部の条項を除き 2024 年 4 月 1 日に施行されています。本改正法は、マレーシア会社法(Companies Act 2016)に規定されているリストラクチャリング・企業再建手続の強化に焦点が当てられており、スキームオブアレンジメント (Scheme of Arrangement)、更生管財手続(Judicial Management)及び会社任意整理(Corporate Voluntary Arrangement)において手続の明確化や新制度が導入されています 。今回の改正は、シンガポールにおける 2017 年・2020 年の倒産法改正や、2020 年に行われた英国倒産法改正を参考にした部分も多く 、また債務者フレンドリーな改正が多いという点では、近年の国際的な倒産法制改正の潮流にも沿うものとなります。本稿では、マレーシア法改正による企業再建手続の変更点のうち実務的に重要なポイントについてご紹介します。
2. 保全命令制度の改正
1. はじめに
マレーシアにおける債権回収を検討するに際しては、企業倒産手続の基本的理解が重要となります。マレーシアの倒産法は、旧宗主国である英国の法律に由来していますが、近年では英国がより債務者フレンドリーな倒産法制度を取り入れるなど 、マレーシアと英国の倒産法制度の差異も顕著となってきています。本稿では、マレーシアにおける企業倒産手続を概説しつつ、債 権回収上の留意点について考察します。
2. マレーシアにおける企業倒産手続について
マレーシアの企業倒産手続には、主に①清算手続(Liquidation 又は Winding up)、②会社任意整理(Corporate Voluntary Arrangement)、③スキームオブアレンジメント(Scheme of Arrangement)、④更生管財手続(Judicial Management)及び⑤財産管理手続(Receivership)があります。